遥か昔、世界には大いなる『力』が有りました。

その理を多く学び、神に許しを得た者のみがその術を使えるのです。

『力』は世界の栄光であり、誇りでした。





ある時代に、強大な『力』を授かった少年が居ました。

彼は純粋で且つ貪欲な性格から、『力』をみるみるうちに増幅させました。

そして、まだ幼いにも関わらず世界の『力』を持つものの頂点に立ちます。

彼は自分の『力』に絶対な自信を持っていました。

決してこの『力』は揺らぐ事ないと。







自信ほど愚かで不確かな物はないと、誰も教えてはくれなかったのです。













ある日、少年は己の力を奢り、大切な人を守る為仲間を犠牲に秘術を行います。

人間の肉体を使用し、『果てる事の無い魂』を生み出す術です。

彼の大切な人の躯は病で衰弱しており、当時の医術では手の施しようがありませんでした。

そこで彼は、昔に本で見た『禁忌の術』として封印されたその術を行う事にしたのです。

例えそれが禁忌だとしても、少年は己の『力』は充分だと思っていましたし、神すらも自分の味方だと信じて疑いませんでしたから。

そうして術は施され、一時は成功したかのように思われました。





けれど。



ある日突然、少年の大切なその人の心の音色が途絶えたのです。

彼の隣でその人を看病をしていた男が言いました。






『どうして、生きている…?』





彼の大切なその人の魂は、心音が途切れた後も躯から離れていかなかったのです。

術が成功していないと知った瞬間でした。

きっと、何かを犠牲にして得る幸せを、神は認めてはくれなかったのでしょう。




腐り始める躯。けれど消える事無い魂。



数日するとまともに歩く事も出来なくなっていました。

躯の腐食が進行しているのです。






……神は彼に罰を下したのでしょうか。

それとも、神にすら冒せない領域に彼が踏み込んでしまっただけなのでしょうか。

魂だけは朽ちる事無く、費えたはずの身体にいつまでも留まり続ける…。

そんな己の身体に、彼の大切な人は愕然としました。





そんな不安定な世界の中で、大切な人は少年を悲しそうに見つめ、こう言いました。






『こんなものだよ。人間の力なんて…』



己の家を燃やし作り上げた炎を前に、大切な人は泣きそうな声で笑いました。

こんな姿になってまで生きていたくはないと。そう笑いました。

そしてその炎の中に、躯を委ねました。ゆっくりと、ゆっくりと。

彼には止められませんでした。

止める資格など、有りはしなかったのです…。





……さようなら





最後に聞いた小さな声が、彼の中で大きな何かに変わった気がしました。

大きな哀しみに。大きな憎悪に。







とても大きな……決意に。












人は少年の大切な人のような存在を、のちに『幽霊』と呼ぶ事になります。

禁忌を犯した汚れた血を、蔑み、恐れるようになるのです。

そして栄光だったはずの『力』も、同じように…。







何故その様な存在が費える事無く今も存在しているのか。





それは、今から語られる物語の中で、運命を背負った者が答えを見つける筈です。




















……そして、長い月日が流れ、『力』を持つ者が果てる時代。












「……どこへ行く?」

「ちょっと。世界を、変えに」

「それはまた大きな目的だな」

「って言っても。俺一人の世界だけど」

「それでも簡単じゃないさ。お前も『幽霊』なんて俗物の一人なんだから」

「そうかもね。でも、行くよ」

「知ってる」

「……一つだけ、聞いても良い?」

「お前は好きだ」

「……?」

「……だから、戻ってくるなら戻ってこい。何か有ったら逃げてこい」

「………」

「それが答えだ」



「お見通しなんだね。ちょっと言う勇気無かったから、助かった」

「……どういたしまして」





一人の少年が旅立ちます。

その旅立ちが、大きな何かを背負っている事も知らずに…





「変えてこい、お前の世界を」






背負うのは、大きな世界の命運と…小さな『幽霊』の烙印。











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